ホームページ保守契約書に最低限必要なのは、「業務範囲」「対応時間」「報告」「解約条件」「データ・アカウントの引き渡し」の5領域です。この記事では、契約書の基本構成12条項と、発注者(経営者)が特に確認すべきポイントを解説します。雛形もダウンロードできますが、雛形はそのまま使わず、自社の条件に合わせた上で、重要な契約は弁護士のリーガルチェックを受けてください。
ネット上の契約書解説の多くは受注側(制作会社・フリーランス)向けです。この記事は逆で、保守を「頼む側」の中小企業経営者が、不利な契約や曖昧な口約束を避けるための視点で書いています。
契約書がない保守で実際に起きること
保守は「毎月なんとなくお願いしている」という口約束・見積書だけの運用になりがちです。契約書がない場合に実際に起きるトラブルは、パターンが決まっています。
- 「やってくれているはず」事故——バックアップも監視も、実は誰もやっていなかった。範囲が書面にないと、実施の期待と実態がすれ違います
- 解約時の引き渡し拒否・遅延——ログイン情報・データ・ドメインが返ってこない。解約時の引き渡し条項がないと、交渉の根拠を欠きます
- トラブル時の責任の押し付け合い——更新失敗でサイトが壊れた、攻撃で顧客情報が漏れた——誰がどこまで責任を負うのかが曖昧なまま事故だけが起きる
つまり契約書は、業者を縛る書類である以上に、「何を頼んでいて、何を頼んでいないか」を双方で確認する道具です。誠実な保守会社ほど、明確な契約書を歓迎します。
保守契約書の基本構成【12条項】
| 条項 | 決めること | 発注者のチェックポイント |
|---|---|---|
| 1. 業務内容 | 保守に含まれる作業の一覧 | 更新・バックアップ・監視・障害対応が具体的に列挙されているか |
| 2. 業務範囲外の事項 | 含まれない作業の明示 | 記事作成・デザイン変更・復旧作業の扱いが書かれているか |
| 3. 対応時間・連絡方法 | 営業時間、窓口、時間外の扱い | 緊急時の連絡手段が現実的か(メールのみは要注意) |
| 4. 障害対応 | 検知から初動までの目安時間 | 「何時間以内に着手」の目安があるか |
| 5. 報告 | 実施内容の報告頻度・形式 | 月次報告の有無(ないと実施確認ができない) |
| 6. 料金・支払条件 | 月額・支払方法・範囲外作業の単価 | スポット作業の見積もりルールがあるか |
| 7. 契約期間・更新 | 期間と自動更新の条件 | 自動更新の場合、更新前の通知があるか |
| 8. 解約 | 解約予告期間・中途解約の条件 | 予告は1〜2か月前が一般的。長すぎる縛りに注意 |
| 9. データ・アカウントの引き渡し | 解約時に引き渡されるものの一覧 | 最重要。データ・全ログイン情報・ドメイン管理権の引き渡しが明記されているか |
| 10. 秘密保持 | 双方の秘密情報の扱い | 顧客情報を扱う場合は特に |
| 11. 免責・損害賠償 | 責任の範囲と上限 | 賠償上限(月額○か月分等)と免責の範囲を理解して合意する |
| 12. 一般条項 | 反社排除・再委託・合意管轄など | 再委託の可否(誰が実作業をするのか) |
発注者が特に読み込むべき4つの条項
①「業務範囲外」の条項——書いていないことは、やらないこと
トラブルの大半は範囲の誤解から生まれます。「含まれる業務」だけでなく「含まれない業務」が明記されている契約書は、むしろ誠実です。ハッキング復旧が範囲外(別料金)であることが多い点は、事前に把握しておくべき典型例です。
②引き渡し条項——「囲い込み契約」を見抜く最重要ポイント
解約時に、サイトデータ・全ログイン情報・ドメインの管理権限が引き渡されることを必ず書面で確認してください。ここが曖昧な契約は、将来の乗り換えの自由を失う「囲い込み契約」になり得ます。制作会社とのトラブルで最も多いパターンのひとつです。(関連記事:制作会社が倒産・連絡が取れない時の対処手順)
③免責・損害賠償——「攻撃されたら誰の責任か」
保守会社が適切に業務を行っていてもサイバー攻撃を完全には防げないため、免責条項と賠償上限(月額の数か月分など)が入るのが一般的です。これ自体は不当ではありません。確認すべきは、「保守会社の作業ミス(バックアップ未取得での更新失敗など)」まで免責になっていないかという線引きです。
④自動更新と解約予告——「やめられない契約」を避ける
1年契約・自動更新・解約予告3か月前——のような組み合わせは、実質的に解約の機会が年に一度しかありません。予告期間は1〜2か月前が一般的な水準です。長い縛りには、相応の対価(料金割引など)があるかで判断してください。
保守契約書の雛形ダウンロード
上記12条項を反映した保守契約書の雛形(Word形式)をご用意しています。発注側・受注側のどちらでも土台として使える中立的な内容です。
【ダウンロード資材挿入:保守契約書雛形(Word)のDLフォームまたはリンクをここに設置。メールアドレス取得をゲートにする場合はフォーム連携】
雛形を使う際の注意(重要)
- 雛形はそのまま使わず、業務内容・金額・期間を自社の実態に合わせて修正してください
- 金額が大きい契約・顧客情報を扱う契約は、締結前に弁護士のリーガルチェックを推奨します
- 紙で締結する場合、継続的な保守委託契約は印紙税の課税文書(第7号文書等・4,000円)に該当する場合があります。電子契約であれば印紙は不要とされているため、電子締結が実務的です(該当判断は税理士・税務署へ)
よくある質問
Q. 収入印紙は必要ですか?
紙の契約書の場合、継続的取引の基本となる契約(第7号文書)などに該当し、印紙(4,000円)が必要になる場合があります。該当するかは契約内容によるため税理士・税務署に確認してください。電子契約なら印紙税はかからないとされており、近年は電子締結が主流です。
Q. 相手(保守会社)が用意した契約書に、そのままサインしていいですか?
本記事の12条項表と照らして、特に「範囲外事項」「引き渡し」「免責」「解約」の4条項を確認してから判断してください。確認の質問をして嫌がる会社であれば、それ自体が判断材料になります。
Q. 個人のフリーランスに頼んでいます。契約書は大げさではないですか?
むしろ個人への委託ほど必要です。病気・廃業・連絡不能のリスクは会社より高く、その際に引き渡し条項の有無が命綱になります。簡易な覚書形式でも、範囲・料金・解約・引き渡しの4点だけは書面にしてください。
Q. すでに契約書なしで何年も依頼しています。今から作れますか?
作れます。「取引を書面で整理したい」という申し出は正当なもので、更新時期や料金改定のタイミングが自然な機会です。長年の口約束取引こそ、実施内容の認識ズレが蓄積している可能性が高いため、現状の作業一覧の確認から始めてください。
まとめ——契約書は「不信」ではなく「確認」の道具
保守契約書の要点は、業務範囲(やること・やらないこと)、解約と引き渡し、免責の線引きの3つに集約されます。今日やるべきことは次の3つです。
- 現在の契約書(または見積書・メール)を12条項表と照合する——特に引き渡し条項の有無
- 書面がなければ、雛形を土台に整理を申し出る——更新時期が自然なタイミングです
- 契約内容と実態のズレを確認する——「契約上やることになっている作業」が実施されているか。サイトの実際の健康状態は無料診断で確認できます

この記事を書いた人
Spyral(スパイラル)/「サイトの主治医」運営 代表 佐藤 秀之
2011年創業、東京都八王子市。情報セキュリティコンサルティング会社でシニアコンサルタントを務めた後に独立し、中小企業のWEB集客・サイト運用を14年支援。ゼロトラスト・セキュリティの研究(Zero Trust Resilience Lab)と現場経験をもとに、WordPress保守・脆弱性診断サービス「サイトの主治医」を運営しています。運営者情報 →
本記事は2026年7月時点の一般的な契約実務の解説であり、法的助言ではありません。個別の契約の締結・解釈は弁護士に、印紙税の判断は税理士・税務署にご確認ください。
