【物語連載】Vol.2 政治編:最大の敵はハッカーではなく「社内」にいる

Project Zero Trust

「セキュリティを強化したいだって? 俺たちの仕事を邪魔する気か!」

前回の「覚醒」を経て、主人公ディランは意気揚々と「プロジェクト・ゼロ・トラスト」を立ち上げた。
しかし、彼を待っていたのは、社員からの感謝ではなく、怒号と冷ややかな視線だった。

多くの情シス担当者がここで心を折られる。「会社を守りたいだけなのに、なぜ全方位から撃たれるのか?」と。
第2回は、技術的な壁よりも遥かに高く分厚い「心理的・政治的な壁」の突破方法についてだ。

この記事はProject Zero Trust特集の一部です。全記事一覧はこちら↓

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Scenario:四面楚歌のプロジェクト

ディランが最初にぶつかったのは、以下の3つの抵抗勢力だった。

  1. 開発部門(Dev)の反乱
    • 「ゼロトラストなんて導入したら、CI/CDパイプラインが止まる。リリースのスピードが落ちたらお前の責任だぞ。」
  2. 営業・マーケティング部門の拒絶
    • 「外出先から顧客データにアクセスするのに、いちいちMFA(多要素認証)なんてやってられない。機会損失だ。」
  3. 法務・人事部門の懸念
    • 「社員のログを常時監視する? プライバシー侵害で訴訟リスクになるわよ。」

彼らにとって、ディランは救世主ではなく「業務のブロッカー(邪魔者)」でしかなかったのだ。

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Insight:なぜ「正論」は通じないのか?

ここでディラン(そして多くの真面目な情シス)が犯すミスは、「セキュリティの重要性」を説教してしまうことだ。

「ランサムウェアが危険なんです!」「NISTの基準なんです!」と叫べば叫ぶほど、現場は白ける。

なぜか? 本書『Project Zero Trust』の著者ジョージ・フィニーはこう指摘する。

「彼らはセキュリティを嫌っているのではない。『変化』を恐れているのだ」

人間は、今の快適な習慣(パスワードの使い回し、VPNつなぎっぱなし)を変えさせられることに本能的な苦痛を感じる。

だから、「セキュリティ vs 利便性」という対立構造で議論している限り、金を稼ぐ部門(営業・開発)に情シスが勝てるわけがないのだ。

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ZTR Solution:参謀としての「政治工作」

ZTRラボが推奨する、このフェーズでの生存戦略は「根回し」だ。
ディランが取った行動を、日本企業向けに翻訳して実行せよ。

Step 1. ステークホルダー・マップを描け

いきなり全体会議で発表するな。まずはA4用紙に組織図を書き、キーマンを3色に分類せよ。

  • 反対派(Enemies): 声が大きく、現状維持を望む古株社員。
  • 中立派(Neutrals): どっちでもいいと思っている大多数。
  • 協力派(Allies): リスクを理解している、あるいは新しいもの好きの若手。

Step 2. 「ランチ」で個別に撃破せよ

反対派のボスを、会議室ではなくランチや飲みに誘え。
そして「セキュリティの話」をするな。「あなたの部門のビジネスゴールは何か?」を聞け。

  • 営業部長には
    「顧客情報が漏れたら、長年の信頼が一瞬で消えますよね。それを守るための『ブランド防衛策』なんです」
  • 開発部長には
    「ゼロトラスト化すれば、VPNの帯域制限から解放されて、リモート開発がもっと爆速になりますよ」

相手のメリット(What’s in it for me?)に翻訳して初めて、彼らは聞く耳を持つ。

Step 3. 「グランド・ストラテジー」への昇華

本書でディランは、ゼロトラストを「IT部門のプロジェクト」ではなく、CEO直轄の「経営戦略(Grand Strategy)」に格上げさせることに成功する。

「情シスがうるさいことを言っている」状態から、「社長の方針として、全部門で取り組む」状態へ。この「虎の威を借る」動きこそが、カオスな社内を鎮圧する唯一の手段だ。

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Action:今週のタスク

今週、あなたがやるべきは、ファイアウォールの設定変更ではない。「人」の設定変更だ。

  1. 「最も反対しそうな人」をリストアップする
    • その人が「何を守ろうとしているのか(自分の権威? 手順の楽さ?)」を想像する。
  2. 彼らを「共犯者」にする
    • 勝手に決めてから通達するのではなく、「セキュリティを強化したいんですが、今の業務フローを壊さないために、あなたの知恵を貸してほしい」と相談を持ちかける。

次回予告:
社内の合意を取り付けたディラン。次はいよいよ、ゼロトラストの核心である「設計(アーキテクチャ)」へと踏み込む。しかし、NISTの図をそのまま適用しようとした彼に、現実のネットワーク構成が牙を剥く。

👉 Vol.3 【設計編】「『なんとなく』を許さないアーキテクチャ」 に続く。

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原作に興味を持った方へ

この連載の元となった書籍『Project Zero Trust』は、技術書とは思えないほどドラマチックな小説です。 詳しい内容はこちらの書評記事で紹介しています。

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