~ 旅の終わり、そして始まり ~
Vol.1の「境界防御の崩壊」から始まり、ID、デバイス、ネットワーク、バックアップ、そしてAIまで。
私たちは共に、現代の脅威に対抗するための強固な城(システム)と、精強な軍隊(運用体制)を作り上げてきました。
これでもう、ランサムウェアは怖くないのでしょうか? セキュリティ対策は「完了」したのでしょうか?
残念ながら、答えは「No」です。
攻撃者は明日、また新しい手口を編み出します。私たちが作った城も、メンテナンスを怠れば明日から風化が始まります。
ゼロトラストは、一度導入して終わりの「プロジェクト」ではありません。組織が存続する限り続いていく「プロセス(生活習慣)」です。
最終回となる本稿では、テクノロジーの先にあるもの――システムを動かす「人の心(文化)」と、真の「レジリエンス(回復力)」について語ります。
1. 「ゼロトラスト」だからこそ、人を「信頼」できる

「性悪説」からの解放
「Zero Trust(信頼しない)」という言葉は、しばしば「性悪説で社員を監視すること」だと誤解されます。しかし、真実はその逆です。
かつては、社員がミスをしないか、裏切らないかを人間が監視する必要がありました。
しかし今は、システム(認証基盤やEDR)が常に検証し、危険な行為を自動で止めてくれます。
システムが誰も信頼しない(検証する)からこそ、「人間を無条件に信頼しなくて済む」のです。
「失敗してもシステムが守ってくれる」という安心感があるからこそ、私たちは社員に大胆な権限を与え、リモートワークやAI活用といった新しい挑戦(イノベーション)を推奨できるのです。
ゼロトラストとは、「社員を管理から解放し、信頼して任せるためのインフラ」なのです。
2. 最大の防御壁は「心理的安全性」である

「怒られるから隠す」が最大のセキュリティホール
どれほど高価なセキュリティ製品を入れても、運用する人間が萎縮していれば、組織は脆く崩れ去ります。
「変な添付ファイルを開いてしまった……でも報告したら怒られるから黙っておこう」
この数時間の隠蔽が、ランサムウェアを全社に拡散させます。
「非難なき振り返り」を文化にする
Googleなどの先進企業が実践している「Blameless Post-Mortem(非難なき振り返り)」を取り入れてください。
インシデントが起きた時、「誰が(Who)クリックしたか」を犯人探しするのではなく、「なぜ(Why)そのメールが届いたのか」「どうすれば(How)次はシステムで防げるか」を議論するのです。
「フィッシングメールを開くのは人間だ。それを防げなかったのはシステム(情シス)の責任だ」
CISO(最高情報セキュリティ責任者)がこのスタンスを明言することで、現場の心理的安全性は高まり、アラート(報告)の速度は劇的に向上します。
3. CISO(あなた)の仕事は「No」と言うことではない

ストッパーから、アクセルへ
従来のセキュリティ担当者は、現場の要望に対して「危ないからダメ」「それは禁止」と言うだけの「ストッパー」でした。これでは経営陣から「コストセンター」扱いされても仕方ありません。
ゼロトラスト時代のCISOの役割は、「アクセル(伴走者)」です。
「ChatGPTを使いたい」と言われたら、「ダメ」ではなく、「どうすれば情報漏洩せずに安全に使えるか」を設計し、提供する。
ビジネスを減速させるのではなく、「安全というガードレールを作ることで、ビジネスを最高速度で走らせる」ことが、あなたの仕事です。
結論:ZTR(Zero Trust Resilience)への招待
この連載のタイトル「ZTRラボ」には、一つの願いを込めました。
Zero Trust Resilience(ゼロトラスト・レジリエンス)。
私たちが目指したのは、「絶対に攻撃されない無敵の城」ではありません。そんなものは幻想です。
私たちが作ったのは、「攻撃されても倒れず、すぐに立ち上がり、その経験を糧にして以前より強くなる組織」です。
システムは整いました。マニュアルもできました。
あとは、あなた自身がリーダーとなり、この「強くて優しいセキュリティ文化」を、組織全体に広げていくだけです。
長い旅にお付き合いいただき、ありがとうございました。
あなたの会社のセキュリティとビジネスが、これからも健やかであることを願って。
ZTRラボ 編集長 & CTO
