【物語連載】Vol.4 実装編:IDこそが新しい「境界」である

Project Zero Trust

「ファイアウォールは役に立たない。犯人は『合鍵』を持って正面玄関から入ってくるのだから。」

ネットワークの設計図(アーキテクチャ)を描き直した主人公ディラン。
しかし、どんなに頑丈な金庫を作っても、その鍵(パスワード)が「P@ssword123」では何の意味もない。

第4回は、ゼロトラストにおける最重要コンポーネント、「アイデンティティ(Identity)」の実装についてだ。
これは技術の話ではない。「パスワード」という、人間が最も苦手な習慣を捨てさせるための戦いだ。

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Scenario:パスワードという名の脆弱性

ディランが社内のログを監査して愕然とした事実がある。
March Fitness社への攻撃は、高度なハッキング技術によるものではなかった。

退職した社員のアカウントが削除されずに残っており(ゴースト・アカウント)、そのパスワードがダークウェブで売られていただけだったのだ。

彼は全社会議で宣言する。
「今日からパスワードは廃止する。MFA(多要素認証)を強制化する」

当然、現場からはブーイングの嵐だ。
「スマホをいちいち取り出すのか?」「1日に何回ログインさせる気だ!」

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Insight:IDこそが唯一の「境界」

なぜディランは、嫌われることを承知でMFAを入れるのか?
本書の第5章「The Identity Cornerstone」で語られる真理はこうだ。

「クラウドとテレワークの時代、ネットワーク境界(社内LAN)は消滅した。唯一残された境界線は『あなた自身(Identity)』だけだ」

攻撃者は、ネットワークの壁は越えられても、「あなたのスマホ(生体認証)」だけは物理的に盗まない限り突破できない。
だからこそ、ID検証(Authentication)と認可(Authorization)を、セキュリティ戦略の中心(Control Plane)に置かなければならないのだ。

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ZTR Solution:飴と鞭(SSOとMFA)

現場の反発を抑え込み、ゼロトラストIDを実装するために、ディラン(そしてZTRラボ)が使う戦術が「バーター取引」だ。

「鞭」:MFAの強制
これは譲れない。VPNだろうがクラウドだろうが、すべてのアクセスにMFAを必須にする。

「飴」:SSO(シングルサインオン)の提供
その代わり、「ログインは朝の1回だけでいい」という環境を提供する。
Azure AD(現Entra ID)やOktaなどのIdP(Identity Provider)を導入し、一度スマホで顔認証すれば、SalesforceもZoomもSlackも、パスワード入力なしで使えるようにするのだ。

「MFAは面倒だが、パスワードを10個覚えなくていいならマシか」
ユーザーにそう思わせたら、情シスの勝ちだ。

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Action:今週のタスク

高価なIdPを買う前に、今すぐできることがある。

  1. 「幽霊」の除霊(アカウント棚卸し)
    • Active Directoryを開き、過去90日間ログインしていないアカウントをリストアップせよ。退職者、テスト用ID、ベンダー用一時ID……それら全てが「裏口」だ。即刻無効化せよ。
  2. 管理者権限の剥奪
    • 「便利だから」という理由で、Domain Admin権限を普段使いしている情シス部員はいないか?
    • 特権IDは「金庫の中」に入れ、必要な時だけ申請して使う運用(PIM/PAM)に変えよ。

次回予告:
IDを固め、入り口を守った。しかし、ディランは気づく。
「正常なIDを持った正規のユーザーが、悪意を持って(あるいは過失で)変な動きをしたら?」
ログを見なければ、脅威は見えない。

👉 Vol.5 【運用編】「見えないものは守れない」 に続く。

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原作に興味を持った方へ

この連載の元となった書籍『Project Zero Trust』は、技術書とは思えないほどドラマチックな小説です。 詳しい内容はこちらの書評記事で紹介しています。

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