感染したかも?まずここを読む

【物語連載】Vol.2 政治編:ゼロトラストの壁はハッカーだけでなく「社内」にもある

Project Zero Trust

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この連載は、George Finney『Project Zero Trust』(Wiley、2022年)の公開されている範囲(出版社の書籍紹介・目次・第1章の試し読み)を手がかりに、運営者が場面を脚色・再構成した翻案です。作中の場面や台詞は本の原文の引用ではありません。

「セキュリティを強化したいだって? 俺たちの仕事を邪魔する気か!」

前回の「覚醒」で、主人公ディランはゼロトラスト導入プロジェクトのリーダーを打診され、迷った末に会社に残ることを決めた。
ここから先は運営者による脚色だ。プロジェクトを動かし始めた彼を待っていたのは、社員からの感謝ではなく、怒号と冷ややかな視線だった。

現実の情シス担当者も、ここで心が折れそうになることがある。「会社を守りたいだけなのに、なぜ全方位から撃たれるのか?」と。
第2回は、技術的な壁よりも遥かに高く分厚い「心理的・政治的な壁」の突破方法についてだ。

この記事は『Project Zero Trust』特集の一部です。全記事一覧はこちら↓

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Scenario:四面楚歌のプロジェクト

以下は、運営者が想定して描いた場面だ(本に書かれている場面・台詞ではない)。ディランが最初にぶつかったのは、次の3つの抵抗勢力だった。

  1. 開発部門(Dev)の反乱
    • 「ゼロトラストなんて導入したら、CI/CDパイプラインが止まる。リリースのスピードが落ちたらお前の責任だぞ。」
  2. 営業・マーケティング部門の拒絶
    • 「外出先から顧客データにアクセスするのに、いちいちMFA(多要素認証)なんてやってられない。機会損失だ。」
  3. 法務・人事部門の懸念
    • 「社員のログを常時監視する? プライバシー侵害で訴訟リスクになるわよ。」

彼らにとって、ディランは救世主ではなく「業務のブロッカー(邪魔者)」でしかなかったのだ。

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Insight:なぜ「正論」は通じないのか?

ここでディラン(そして多くの真面目な情シス)が犯すミスは、「セキュリティの重要性」を説教してしまうことだ。

「ランサムウェアが危険なんです!」「NISTの基準なんです!」と叫べば叫ぶほど、現場は白ける。

なぜか? 『Project Zero Trust』を手がかりにこの連載を書くうえで、運営者は次のように考えている(本の原文の引用ではなく、運営者の解釈)。

彼らはセキュリティを嫌っているのではない。「変化」を恐れているのだ。(運営者の解釈)

人間は、今の快適な習慣(パスワードの使い回し、VPNつなぎっぱなし)を変えさせられることに苦痛を感じやすい。

だから、「セキュリティ vs 利便性」という対立構造で議論している限り、金を稼ぐ部門(営業・開発)に情シスが勝つのは難しい。

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ZTR Solution:参謀としての「政治工作」

運営者がすすめる、このフェーズでの生存戦略は「根回し」だ。
以下のStep 1・2は、本の中でディランが取った行動ではなく、日本企業向けに運営者が考えた進め方である。

Step 1. ステークホルダー・マップを描け

いきなり全体会議で発表するな。まずはA4用紙に組織図を書き、キーマンを3色に分類せよ。

  • 反対派(Enemies): 声が大きく、現状維持を望む古株社員。
  • 中立派(Neutrals): どっちでもいいと思っている大多数。
  • 協力派(Allies): リスクを理解している、あるいは新しいもの好きの若手。

Step 2. 「ランチ」で個別に撃破せよ

反対派のボスを、会議室ではなくランチや飲みに誘え。
そして「セキュリティの話」をするな。「あなたの部門のビジネスゴールは何か?」を聞け。

  • 営業部長には:
    「顧客情報が漏れたら、長年の信頼が一瞬で消えますよね。それを守るための『ブランド防衛策』なんです」
  • 開発部長には:
    「構成によっては、VPN経由の折り返し通信が減って、リモート開発の通信が軽くなる場合もありますよ」

相手のメリット(What’s in it for me?)に翻訳して初めて、彼らは聞く耳を持つ。

Step 3. 「全社の戦略」への昇華

本の第1章では、ゼロトラストを全社のセキュリティ戦略にすると決めるのは、ディランではなくCEOのオリビアだ。オリビアは「これからは、ゼロトラストが当社のセキュリティ戦略になる」と告げ、ディランには6か月間、CEOに直接報告できる立場(dotted line)を示す(Wiley、第1章の試し読み)。ゼロトラストは「IT部門のプロジェクト」ではなく、経営トップが決める「戦略(Strategy)」として扱われている(目次の第2章の題は「Zero Trust Is a Strategy」)。

「情シスがうるさいことを言っている」状態から、「社長の方針として、全部門で取り組む」状態へ。この「虎の威を借る」動きは、カオスな社内をまとめる有効な手段の一つだ。

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Action:今週のタスク

今週、あなたがやるべきは、ファイアウォールの設定変更ではない。「人」の設定変更だ。

  1. 「最も反対しそうな人」をリストアップする
    • その人が「何を守ろうとしているのか(自分の権威? 手順の楽さ?)」を想像する。
  2. 彼らを「共犯者」にする
    • 勝手に決めてから通達するのではなく、「セキュリティを強化したいんですが、今の業務フローを壊さないために、あなたの知恵を貸してほしい」と相談を持ちかける。

次回予告:
社内の合意を取り付けたディラン。次はいよいよ、ゼロトラストの核心である「設計(アーキテクチャ)」へと踏み込む。次回は、教科書どおりの図をそのまま当てはめようとした彼が現実のネットワーク構成とぶつかる場面を、運営者の脚色で描く。

👉 Vol.3 【設計編】「『なんとなく』を許さないアーキテクチャ」 に続く。

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最終更新:2026年10月1日(出版社の公開資料に基づき事実関係を修正)

原作に興味を持った方へ

この連載の元となった書籍『Project Zero Trust』は、技術書とは思えないほどドラマチックな小説です。 詳しい内容はこちらの書評記事で紹介しています。

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