【技術補講】会議室でできるサイバー避難訓練。経営層を震え上がらせる「机上演習(Tabletop Exercise)」の進行台本

Project Zero Trust

Project Zero Trust』のクライマックス(Chapter 10)で、最も効果的だった施策は、数千万円のシステムではなく、会議室で行われた「机上演習(Tabletop Exercise)」でした。

しかし、いざ日本企業でこれをやろうとすると、「何を話せばいいかわからない」「白けて終わる」というのが関の山です。

そこで今回は、情シス担当者がファシリテーター(司会)となり、役員・部長陣を「良い意味で追い詰める」ための完全台本を用意しました。
プリントアウトして、次回の定例会議の「余った30分」で実施してみてください。

この記事はProject Zero Trust特集の一部です。全記事一覧はこちら↓

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シナリオ1:CEOのPC紛失(初級編)

【設定】
金曜日の夜22時。社長が会食帰りのタクシーに、会社貸与のノートPCを置き忘れました。PCには未発表のM&A資料が入っています。社長は酔っており、パスワードメモをPCケースに入れていた可能性があります。

【ファシリテーター(あなた)の台詞】
「さて、社長から『PCをなくした』と電話がありました。今、22時15分です。ここからどう動きますか?」

【意地悪な質問リスト(Injects)】

  1. (総務部長へ) 「タクシー会社には連絡がつかないそうです。警察に届けますか? その場合、マスコミに『紛失』がバレるリスクがありますが、どう判断しますか?」
  2. (情シス担当へ) 「リモートワイプ(遠隔消去)しますか? でも、もしPCが『タクシー会社の親切な運転手の手元』にあったら、ワイプした瞬間にGPS追跡も切れ、二度と戻ってきませんが、ボタンを押しますか?」
  3. (法務部長へ) 「もしパスワードメモごと一緒に盗まれていたら、情報漏洩は確定です。この段階で取引先(M&A相手)に謝罪の連絡を入れますか? まだ『漏れた』とは決まっていませんが?」

【狙い】
「スピード(ワイプ)」を取るか、「証拠保全/発見の可能性」を取るか。正解はありません。「誰がその決断の責任を取るか」をあぶり出すのが目的です。

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シナリオ2:ランサムウェア感染(上級編)

【設定】
月曜日の朝9時。基幹システムの画面が赤くなり、「全てのデータを暗号化した。48時間以内に1億円払え。支払わなければ顧客データをダークウェブに公開する」と表示されています。

【ファシリテーター(あなた)の台詞】
「画面はロックされました。業務は一切できません。犯人からのカウントダウンが進んでいます。さあ、どうしますか?」

【意地悪な質問リスト(Injects)】

  1. (社長へ) 「1億円、払いますか? サイバー保険に入っていますが、保険会社は『反社会的勢力への利益供与になるため、身代金支払いは補償しない』と言っています。自腹でも払いますか?」
  2. (営業部長へ) 「システム復旧には最低1週間かかります。その間、受注業務はどうしますか? FAXで受けますか? そのFAX用紙と人手はどこにありますか?」
  3. (広報へ) 「Xで『御社のシステム止まってない?』という投稿が増えています。まだ原因は特定できていませんが、『メンテナンス中』と嘘をつきますか? それとも『サイバー攻撃です』と正直に言いますか?」

【狙い】
技術的な復旧よりも、「事業継続(BCP)」「対外コミュニケーション(Crisis Comm)」の準備不足を露呈させます。

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まとめ:失敗こそが成功

おそらく、最初の演習は「沈黙」か「責任のなすりつけ合い」で終わるでしょう。
それでいいのです。

ファシリテーターの最後の一言はこうです。

「これが訓練で本当によかったです。本番までに、今日出た課題(連絡網がない、権限が不明)を潰しておきましょう」

この一言で、あなたの評価は「パソコン係」から「リスク管理の参謀」へと変わります。
コスト0円、効果絶大の演習を、ぜひ試してみてください。

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原作に興味を持った方へ

この連載の元となった書籍『Project Zero Trust』は、技術書とは思えないほどドラマチックな小説です。 詳しい内容はこちらの書評記事で紹介しています。

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