~「預言者、故郷に容れられず」~
情シスなら、こんな経験が一度はあるはずです。
あなたが半年かけて調査し、「このリスクは放置すると危険です。対策に300万円必要です」と必死に訴えても、社長は生返事。
「うーん、今は予算がないから来期にしよう」
ところが翌月。
ふらっとやってきた付き合いのあるベンダーや、社長がゴルフ場で知り合ったコンサルタントが「社長、今はセキュリティ投資しないと会社が潰れますよ」と一言言った瞬間。

おい! すぐに導入検討しろ! 300万円だ!
……ふざけるな、と。
私が半年言い続けてきたことは何だったのか、と。
この現象には名前があります。聖書の言葉を借りれば「預言者、故郷に容れられず(A prophet has no honor in his own country)」。
人間は、身近な部下の意見よりも、「外部の権威」や「第三者」の言葉を無条件に信じ込むバイアスを持っています。特に、ITに疎い経営層ほどその傾向は顕著です。
ここで腐ってはいけません。
「社長は分かってくれない」と嘆くのは二流です。一流の情シス(参謀)は、このバイアスを逆手に取ります。
つまり、ベンダーを「説得の道具」として利用するのです。
本記事では、通りにくい予算やポリシーを通すための、ベンダーを使った「社内政治柔道」の技術を解説します。
Step 1:ベンダーへの「事前ブリーフィング(演技指導)」

ベンダーが来社してプレゼンする際、彼らに「何を話すか」を任せてはいけません。
彼らは放っておくと「製品の機能(スペック)」を話します。しかし、社長が興味があるのは「経営リスク」だけです。
プレゼンの数日前、営業担当を呼び出し(あるいはZoomで)、こう伝えてください。

今回の決裁を通すために、この台本通りに喋ってください。
具体的には、以下の「3つの演技指導」を行います。
1. 「技術」ではなく「恐怖」を語らせる
あなた(社員)が恐怖を煽ると「また大げさなことを言って予算を取りに来た」と思われます。しかし、外部の人間が言うと「客観的な市場分析」に聞こえます。

× あなた:ランサムウェア対策が必要です

○ ベンダー: 「御社と同規模の競合他社A社が先月やられました。被害額は2億円です。御社も今のままだと時間の問題です」
※この「他社事例」をベンダーに用意させます。
2. あなたを「上げ」させる
ベンダーに、あなたの評価を高めるような発言を仕込みます。

実は、御社の◯◯様(あなた)が構築された現行システムは、5年前の基準では完璧でした。しかし、攻撃手法が変わったため、◯◯様のご尽力だけでは物理的に限界が来ています。
これにより、あなたの顔を立てつつ、リプレースの正当性を主張できます。
3. 「社長の責任」を匂わせる
これはあなたが口が裂けても言えないことです。ベンダーに言わせましょう。

最終的に、このリスクを受け入れるかどうかは経営判断です。もし何かあった際、株主への説明責任を果たせるよう、最低限このライン(見積もりの金額)は必要かと存じます。
Step 2:あえて高い「当て馬(Decoy)」を作らせる

人間は絶対的な価値判断ができません。「比較」でしか物を選べない生き物です。
本命の予算(例:500万円)を通したい時、500万円の見積もりだけを出してはいけません。「高い」と言われて終わりです。
ベンダーと結託し、意図的に「松・竹・梅」を作らせます。
- 松(当て馬): 1,200万円
- 「世界最高峰のフルスペック構成です。NASAも使っています」
- 竹(本命): 500万円
- 「コストを抑えつつ、御社に必要な機能だけを厳選しました」
- 梅(捨て案): 100万円
- 「安価ですが、重要なログ監視機能がありません。事故時の調査は不可能です」
プレゼンでは、まずベンダーに「松(1,200万円)」を提示させ、社長をビビらせます。
その後にあなたが助け舟を出します。

さすがに1,000万越えは私も過剰投資だと思います。ベンダーさんと調整して、機能を削ぎ落とした現実的なプラン(竹)を作りました。これなら半額以下でいけます。
これで、500万円が「高い出費」から「賢い節約」に変わります。これがアンカリング効果です。
Step 3:貸し借りのバランスシート(Win-Win)

ここまでやらせる以上、ベンダーにもメリットが必要です。
もちろん「契約を取らせる」ことが最大のメリットですが、彼らもプロです。「利用されている」ことには気づきます。
だからこそ、ビジネスライクに握るのです。

社長へのプレゼンで私のシナリオに協力してくれれば、競合他社(相見積もり)は形式的なものに留め、御社を第一優先で推す。
これは不正や癒着ではありません。
こちらの意図(戦略)を最も理解し、経営層への説得という「ソリューション」を提供してくれたベンダーを選ぶ。それは正当な選定理由です。
「ただ製品を売るだけの業者」ではなく、「社内政治をハックする共犯者」になれるベンダーを探してください。それこそが、最強のパートナーシップです。
まとめ:あなたは操り人形ではない。人形使いだ。
「ベンダーの言いなりになって契約させられた」
そう嘆く情シスは、自分が主導権を放棄しているだけです。
あなたが脚本を書き、ベンダーに演じさせ、社長に決断させる。
表向きはベンダーの手柄に見えても、その糸を引いているのがあなたであれば、それはあなたの勝利です。
プライドを捨て、実(予算とセキュリティ)を取りましょう。
それが「戦略的」な情シスの生き様です。
🛡️ 追伸:政治力を磨きたいあなたへ
この「社内政治」の技術をもっと深く、物語形式で学びたいですか?
それなら、当ラボの看板連載を読むのが近道です。
- 政治的手腕を学ぶなら:
主人公ディランがいかにして「抵抗勢力」を「味方」に変えていったか。その全貌を描いた
👉【物語連載】Vol.2 政治編:最大の敵はハッカーではなく「社内」にいる - 経営層を震え上がらせるなら:
言葉だけでなく「体験」で分からせるのが一番です。役員を集めて実施する
👉 机上演習(Tabletop Exercise)進行台本
を手に入れてください。ベンダーに頼らずとも、社長の顔色を変えることができます。

